風景写真の愉しみ#4
前回、レンズの話に移ります、と申し上げたのですが、やはりもう少しカメラ本体についてお話をさせていただきたくなりました。
予定変更でお付き合いください。
どのカメラについてか、というと
Nikon F3
です。
そしてここに掲載の写真が、私が持っている現物です。
上の写真でお分かりのように、ダイアルパネルは機材上部に集中しています。一方でデジカメのような複雑な設定はありません。基本はシャッタースピードと露出補正の設定だけ。
そしてこのメカニカルな感じ。今ではほとんど使う機会はなくなっているのですが、ここぞというときにはやはり持ち出したいのです。どのような場面かといえば、この場所に来ることができて本当に幸せ、という場所で風景写真を撮るときには、フルサイズのデジカメももちろん必要ではあるのですが、リバーサルフィルムでやはり撮りたいのです。
何が違うのか。あくまで個人的なものでしかないかもしれないのですが、特に富士フィルムのあのリバーサルフィルムの出す色合い、そして一度撮影すれば基本的には変化させようにも変えることができないあの色合い、これがその時の感動をそこに閉じ込めておく感覚に心底浸ることができるのです。
デジカメは容易に編集ができます。それはそれで良い面ではもちろんありますが、たとえRAWで撮影したとしても、現場で味わった感動がそのまま再現されているとはなかなか感じないのが正直なところです。
RAWで撮影したとしても、その後現像処理をするわけです。多くの方がそうされていると思います。
その作業によって、きれいな画ができることは間違いありません。私もデジカメで撮った写真のRAW現像は手間がかかるなと思いながらも相当な時間をかけている気がします。
ですが、それによって、本当にこれは自分が現場で見た場面を切り取った写真なのだろうか、とわからなくなってしまうときも正直申し上げると結構な頻度であります。
どこに価値観を置くかによってもちろんこの部分の捉え方は変わってきます。
ネットにあげて他の方にもこの写真は素晴らしい、自分もこの場面に行きたい、と思われるような写真もそれはそれでとても大事ですし、自分がRAW現像する際もどちらかと言えばその方向で現像してしまいます。具体的には彩度やコントラストはどうしても強みになってしまう癖を感じています。
故に、下手をすると事後の自己満足に陥ってしまうリスクを感じているのです。
もしそのときにリバーサルフィルムで撮った写真がその場にあったとすれば、ということなのです。
そしてもう一つは、コストがかかることによる、1枚の撮影に対する向き合い方、手間暇のかけ方の部分です。
デジカメであればうまく行かないと感じるときはいくらでもやり直しがききます(天候急変がない限り)。
ですがフィルムカメラであればそうは行きませんから、この設定で本当に問題ないか、と最新の注意を払いますし、ファインダーを何度ものぞいてこの構図で満足行く状況か、という確認にも時間をかけます。
これがもし最新のミラーレスでファインダーではなくモニターで確認となった場合は果たしてどちらがより集中して確認ができるのか。
私の場合では今の一眼デジカメでも、ライブビューはまず使うことなく、ファインダーをのぞきます。
ファインダー視野率100%ということもあって、あの小さなファインダーであってもです。
いえ、むしろ小さいから良いのかもしれません。
小さなファインダーをのぞくことで集中力が増す、と感じるのです。
あくまで個人的なものですからすべての方に当てはまるとは思いませんが、でも私の場合は、常にです。
ただしその部分は何もフィルムカメラであれば、ということではありませんので、話を元に戻しますが、F3をいつまで使い続けるのか。それはまだ私にもわかりません。
あのメカニカルな部分を再現した最新のミラーレスも出てきていますので、フィルムを巻き上げる、という感触の部分以外はF3にこだわる必要ももしかするとなくなるのかもしれません。
そして先日カメラ店をのぞいたときにびっくりしました。
富士フィルムのリバーサルフィルムの値段が大きく跳ね上がっているのです。
ある意味当然です。需要がないのですから、値段を高くしてもおそらく赤字なのでは、と思ってしまいます。
以前であればフィルム1本は1,000円で買うことができました。ですが今ではその5倍に値段が跳ね上がりました。
お金持ちしか買えない道楽の世界かもしれません。
でも年に1回であれば、という思いは当然あります。
供給がなくなれば諦めもつきますが。
毎年紅葉の時期になると、この先も当分の間は悩むことになるのでしょう。
でも改めて昔撮った上高地の新緑での写真を載せておきます。
実際に両者ともにプリントアウトしたもので、この画面上では細部の繊細さは全くわからないと思いますが、色の出方が相当に違うのはお分かりいただけると思います。特に湖面そばの新緑の木々の色。
上がリバーサルフィルム、下がデジカメです。
色合いだけでなく、穂高連峰の写り具合も現物を見ていただければ本当にすぐわかるのですが(ここの画像では無理ですが)、圧倒的にF3&リバーサルフィルムの勝利です。
最新のミラーレス一眼になると相当に解像度も上がっているという話を聞きますので、これほどの違いはなくなっているのかもしれません。ですが、旧来の技術だからと言って、昔のカメラとレンズそしてリバーサルフィルムの写真ではだめだ、ということには全くなりません。
多くの方に一度でよいので、リバーサルフィルムの世界を味わってほしいと願っています。