東京から夜行バスで登山に行く際に、最も混み合っている、つまり人気の場所が上高地です。
その理由は、本格的な登山者から気軽なハイキング愛好者まで幅広い層を受け入れることができるロケーションであるとともに、何箇所も人々を魅了する場所があるからです。
かく言う私も上高地には何度でも行きたいと今でも思いますし、本当に素晴らしい場所です。
そして登山を楽しみたい。でもとてもテント泊なんて無理だし、山小屋に泊まるのもどうにも抵抗感を感じるな、という方であっても大丈夫です。
私も山に通うようになったのは上高地への夜行日帰りバスを利用して、今回ご紹介する岳沢(だけさわ)に行ったことがその始まりです。
さあ、その上高地・岳沢ではどのような素晴らしい紅葉に巡り合うことができるのでしょうか。
今回の旅の始まりです。
早朝5時半ごろ、夜行バスは上高地バスターミナルにつきます。
紅葉の時期であればこの時間はまだ真っ暗。もしバスの中でも眠れるよ、という方であれば、えっもう着いたの?という感じで、運転手さんの到着のアナウンスを聞くことになるかもしれません。
そしてこの時期、都会ではまだまだ日中は汗ばむ陽気でシャツ1枚でも十分と感じる時があるほどですが、ここはそれと比べれば別世界。
いきなりセーターかフリースを着こまないととてもいられない状態の場所に降り立ちます。
そしても一つ初めて足を運んだ人にとって驚くことは登山者があふれかえっていることではないでしょうか。
早朝にもかかわらず、いえ、早朝だからこそ本格的登山をする重装備を持った人々でバスターミナルは人であふれかえっています。
お店ももちろん営業を開始しています。食事の用意を何もしてこなかった、という方で登山をしようとするなら、ここで買い求めてくださいね。
さて、準備ができたら、とっても有名な観光地である河童橋に向けて歩き出しましょう。
約10分、あちこちの観光写真で見たあの橋に到着します。
早朝に到着すると、快晴であってもまだ河童橋には陽が届きません。
この写真でも目を凝らしてみてくだされば河童橋が写っているのがお分かりいただけると思いますが、ここに日差しが届くにはあと1時間程度必要です。
<河童橋から臨む早朝の岳沢そして穂高連峰 (2013年10月13日)>
私はこの河童橋及び周辺から眺める穂高連峰の峰々。本当に好きなポイントです。山々の形がなんとも言えず心を落ち着かせてくれるのです。そして穂高の高い峰々の手前にある岳沢、そこが今回の目的地ですが、その色付きもここから確認できます。
まだまだ遠いですし、早朝ではっきりした色合いまで確認できませんが、いい感じで色付いていそうに思えます。今日の登山、そして撮影に心高ぶってきます。
さて、ここから岳沢湿原に向かい、そのまま岳沢に向けて登っていくのももちろんありですが、ほんの少しだけ寄り道をしていきましょう。
小梨平キャンプ場が河童橋より徒歩数分のところにあります。河童橋の右岸からそちらに進んでいくと、このような梓川沿いの道から穂高連峰を臨むことができるのです。先ほどの河童橋からの光景とはすでに違った感じになってくるのがお分かりになりますでしょうか。
左右に開けてくることもあって感じる印象も変わってきます。
<上高地から臨む絶景紅葉の岳沢と穂高連峰 (2013年10月13日)>
ちょうどこの時は、日の出から日が差し込むまでの時間帯で朝もやも出ていました。幻想的というと少々オーバーですが、ですが何とも言えない静寂な空間がそこには存在していました。
そうなると、やはり荷物を降ろして、カメラを向けてじっくりと撮影タイムです。
前夜に冠雪があったようで、この時間の時はうっすらと雪化粧している峰々を見ることができました。
<上高地から臨む絶景紅葉の岳沢と穂高連峰 (2013年10月13日)>
さて、この小梨平キャンプ場での撮影はどの時間帯までできるかはそのあとの行程次第です。
夜行日帰りの方は、この場所あるいは河童橋で岳沢に日が回ってくるまで待ってしまうとそのあとの行程がとても厳しくなると思います。
私の場合は、特に登りは大の苦手で、撮影機材を持っているときは本当に余裕がなくなるのであまりここに長居はできません。早々に岳沢に向かって移動します。
(そうは言っても30分以上はここで撮影の時間は取っています)
もう一度河童橋まで戻り、今度は左岸から岳沢湿原に入ります。
遊歩道がついていますので道に迷う心配は全くありません。そして途中に岳沢湿原の中で展望が開けるところがあります。初めて行く方であれば、そこに少しの時間でもよいので立ち寄ることをお勧めします。
この撮影旅行の時は、帰路に立ち寄っていますので、ここでは写真はなしで、進みますね。ごめんなさい。
さて、岳沢湿原を過ぎると、いよいよ登山路に入ります。
この標識を見ることになります。
この標識では岳沢小屋まで4km、2時間とあります。
確かにコースタイムとしてこのようになるのでしょう。ですが私にとっても全くもって指標にならないものでして・・・。
実はこの撮影旅行に出かけた時、昔、初めてこの場所を訪れ、とてもつらい思いをしたこともあって、多少はトレーニングもしてきたものの、決して無理をしないように慎重に登っていこう、と考えてペース配分をしたこともあり、岳沢小屋まで何と3時間かかりました。
遅い、登りが苦手ということもありますが、やはり三脚をセットして撮影する、まだ三脚を片付けてザックに括り付けて登り始める、ということを繰り返すことも時間がかかる大きな要因にもなります。
特にこの時のように紅葉の時期としてもどんぴしゃり、そして快晴とくればこれは致し方ないでしょう。ぜひあなたも自分はコースタイムと比較してどれくらい余計に時間を要することになるのか、ということをつかんで欲しいと思います。そしてコースタイムにこだわりすぎないことです。三脚を含むカメラ機材一切なしで、途中の記念写真もスマホでさっさと済ませることができる登山であれば、コースタイムは一つの目安でしょうが、週末風景写真家にとっては、やはりこのコースタイムはあくまで一つの目安でしかありません。余分に時間がかかることを想定の上、目的地での撮影時間をどれだけ確保できるか、その段取り、シミュレーションを事前にしっかり行うことが大事だということは忘れないようにしましょう。
さて、岳沢登山口からしばらくは樹林帯の中を進みますが、約1時間進むと開けた場所に出ます。そこから上高地方面を振り返った光景がこの写真です。河童橋からは結構来たな、と感じられる場所ですし、ここから岳沢上部を臨むと穂高連峰が随分近づいてきたぞ、と感じられると思います。
小休止にはとても良いポイントです。
グループで登ってきた方々はここで休憩を取り、皆さん一斉に写真撮影タイムになっていました。
しかしながら個人的にはここでは三脚をセットして、という感じはならないので、小休止とし、撮影も手持ちで済ませて先に進みます。ここから先は、もう少し進むと、特に晴れていれば左側あるいは前方に絶景が臨めます。
撮影したい場所があちこちに出てきますので、カメラはザックの中にしまうのではなく、携行するのが良いでしょう。私の場合は、ウェストポーチを装着して、その中に入れて登ります。
そしてこのような光景に出会うことができれば疲れなど感じずに登っていくこともできるのではないでしょうか。
この岳沢の登山道はそれほどきつい登りではありませんが、所々で急登と言ってもよい場所が出てきます。無理をせずに、一歩一歩進んでいきましょう。
そしてこのような天候に恵まれれば、あまりその心配もしなくて済みます。どういうことかというと、登りでぜえぜえ、はあはあして、そろそろ小休止をしたいな、と思うようなタイミングでカメラを向けたくなる場所にあちこちで遭遇するからです。
この岳沢では残念ながら紅葉の定番ともいえるナナカマドの赤にはあまりお目にかかることができません。ですがわずかではありますが、お目にかかることができる場所もあります。
この辺りまでくればもう目指すだけ沢小屋までの距離はだいぶ残り少なくなってきてインすので、じっくり撮影に向き合ってもよいポイントと言えるでしょう。
このガレ沢を渡るとあと少しで岳沢小屋です。渡り切った後は展望があまり効かない場所を10分ぐらい登るといよいよ到着です。
標高2,170mの岳沢小屋到着です。
売店もトイレもしっかりしたところですので、まずはここまで登り切った感慨に浸りながら、しっかり休憩を取りましょう。
岳沢小屋の休憩所から臨む光景です。
ダケカンバの黄葉が本当にきれいに感じられるところです。想像以上に疲れを感じるようであれば、この周りの散策で帰ったとしても、決して後悔はしないでしょう。実際岳沢小屋までの登山で帰る方も大勢いるくらいですから。
さて、そうは言っても、私の今回の目的は、この岳沢のダケカンバの黄葉を上部から撮影することにありますので、ここでは朝食を取った後はすぐさま行動再開です。この場所からは岳沢キャンプ場を通って、前穂高岳に向かう、本格的な登山道を進むことになります。
とは言っても、本格的な登山をするわけではないので、危険個所のはるか手前までしか行きません。そして夜行日帰りの帰りのバスの時間を考えると、そのような場所に行く時間も撮れません。
この時は体調が良かったこともあり、約40分の登りで、それなりの標高を稼ぐことができました。上の写真で右側に岳沢小屋が写っているのがお分かりいただけますでしょうか。
この近辺で、三脚をセットしても他の登山者の方の邪魔にならない場所を探してじっくりと撮影タイムに入りました。たっぷり小1時間、色々アングルを探りながらファインダーをのぞき込んでいました。
<絶景紅葉の上高地・岳沢 (2013年10月13日)>
<絶景紅葉の上高地・岳沢 (2013年10月13日)>
<絶景紅葉の上高地・岳沢 (2013年10月13日)>
残念ながら、帰りのバスの時間を考えるとそろそろ限界、と思って12時近くには下山準備です。天気は最高の状態が続きましたが、果たして写真の出来栄えはいかに。
これだけ天気が良いと、デジカメのモニターではどの写り具合、特に色合いの加減はわかりません。ましてや私の場合はリバーサルフィルム(スライドのことです)も未だに楽しんでいるので、もう後は現像してのお楽しみ、ということで、名残は尽きませんが、最高の場所ともお別れです。
なお、この岳沢を見下ろす写真では、私が見た中では、岳沢小屋の方が撮られた写真を超えるものはありません。小屋の中にも大きく引き伸ばした写真も飾ってありますし、岳沢小屋のホームページの中にも掲載されています。岳沢の紅葉の素晴らしさを堪能する上では必見です。
さて、帰りのバスの時間もあるので快晴の中でも残念ながら長居はできません。下り始めるのですが、ここもコースタイム通りの想定ではいけません。本当にあちこちで三脚を立てたくなります。
ここもその一つ。朝と違って光が全面に回っていることでダケカンバの黄葉がとても映えていました。下りの際は、時々来た道を振り返りましょう。登りの時にも気づかなかった光景にあちこちで出会うことができます。
<上高地・岳沢から臨む穂高 (2013年10月13日)>
コースタイムより大幅に時間をかけて、登山口まで下りてきました。
岳沢湿原の色も、本当に光の加減によって変わります。朝とは違った色彩を楽しませてくれます。そして時間配分で多少余裕があれば、岳沢湿原の撮影タイムも必ず取ることをお勧めします。早朝のような幽玄さはさすがにありませんが、岳沢湿原の魅力を感じることができると思います。
岳沢湿原を過ぎればいよいよ河童橋です。ようやく戻ってきた、ということですね。
河童橋から改めて臨む岳沢と穂高連峰の峰々。あそこに行ってきたのだと思うと感慨ひとしおと感じるのは私だけではないでしょう。
ここでの再度の撮影タイムもしっかり計算に入れておきたいところです。下記の写真は河童橋までは戻らずに、河原で見晴らしのある場所からの1枚です。信じられないくらいにこの日はずっと快晴でした。本当にありがたい1日となりました。
いつもいつもこのような天気に恵まれるわけではありませんので、何回か通えばこのような日柄の時に滞在することができる、と思っておいてください。
実は私が初めて紅葉撮影のために山に登ってみようと思って出かけたのがこの岳沢でした。残念ながらその時は曇天かつ紅葉も全くきれいではなく、とてもがっかりしたことを今でも覚えています。ですが、その時はきれいな紅葉に出会うことができなかった残念さ以上に山登りということをしっかり考えていなかった自分自身を振り返り、本当に赤面の至りです。是非皆さんにはこのような経験をしてほしくないので恥を忍んで記しておきます。何かというと、完全に登山を甘く見ていました。穂高に登るような本格的な登山ではないので、岳沢に行くくらいであれば問題ないだろうと思ったのが大間違いの元。日ごろの運動不足と夜行バスの疲れでもあって、登りの途中で本当にきつくなってしまい、最終目的地まで行かずに引き返すことになりました。それも途中で、上から下ってきて本格的登山者の方に水を分けてもらったことで生き返り、何とか上高地までもどってくることができた、というひどいものでした。完全に脱水症状になっていました。その時私は何と、500㏄のペットボトル1本しか持っていなかったのです。曇っていたこともあって汗もそれほどかいたわけではありませんでした。ですが、高地では想像以上に水分が体外に出ていくことを認識していませんでした。本当に登りがきつくてきつくて。水を分けていただいた後に体が軽くなったのを感じて、ようやく、ああ、脱水症状だったのだな、と自己認識をした、という顛末です。まだ体力はあるだろう、と思っていたことも失敗の一因でした。当時はまだ、山ガールとして多くの人が登山に親しむようになる前の時代でした。山雑誌はもちろんありましたが、ネットで山情報が溢れんばかりに流れる今とは違い、情報へのアクセスという意味ではまだまだ手軽に、というわけにはいかなかったような時代でした。でもそれらもすべてが言い訳です。当時もガイドブックは書店にはたくさん並んでいたのですから、それらから2、3冊でも読んでいれば、このようなお粗末な失敗をすることはなかったはずです。大事に至ることがなく本当に良かったと思っているとともに、あの時水をくださった方には本当に今でも感謝しています。
さて、少々余計な話をしてしまいましたが、繰り返しですが、私が初めて山での撮影をしようと思ったのがこの岳沢です。その初回は1日どんよりとした天気でかつ、紅葉・黄葉も全くきれい、素晴らしいと感じることができないまま完全に不完全燃焼で終わりました。でもその時の悔しい思いがあるからこそ、今回のこの素晴らしい天気、光景を味わうことができたのだと思います。1度行って良くなかったから、と諦めずにせめて2度はこの上高地そして岳沢を訪れてほしいと思います。今はネットで多くの方が素晴らしい写真や動画をアップされています。その中で素晴らしい写真に出会い、自分もその光景を生で見たいと思って山行の計画を皆さんも立てられることでしょう(私はそうしています)。
是非1度でネットで見た写真のような光景に出会うことができる方がまれだ、と思って複数回そこに足を運んでみよう、という思いで計画を立ててみてください。
<上高地から臨む絶景紅葉の岳沢と穂高連峰 (2013年10月13日)>